長い。

通勤電車で、ふと目にとまったのが
目の前に座っているおじさんだった。

フツーのおじさん。わりとダンディ系。
はげかかった頭を短めに刈り込んで、
めがねに白髪交じりの無精ひげ。
サスペンダーもそれなりに似合う
体格もよく、筋肉ありげなおじさん。
でも目にとまったのは体全体ではない。

おじさんは、座りながら社内広告を見ていた。
見ていた――見上げていた。
そのめがねの奥、その見上げている目に
目が留まったのだ。
いや、目というよりも、その「まつげ」に。
車内で化粧するねーちゃんが
いっしょうけんめいつくっている
つけまつげのごとく長い。
長くてキレイ。
おじさんなのに。おじさんゆえに目立つのか。
見上げているから、よけいに
その長さが強調されているのか。

長いまつげが目元を美しくする……
そんなどっかの化粧品メーカーのコピーが思わず頭に浮かび
「ホントかも」などと感心してしまったのだった。